【産地だより特別編】宮崎新燃岳周辺産地レポート

【産地だより特別編】宮崎新燃岳周辺産地レポート

確実に日本史に記載されるであろう未曾有の大災害である東日本大震災。ここ数年、自然環境が大きく変化していることに、畑を歩いていると特に感じます。「異常気象」という言葉が浸透してしまい、何が平年なのかの基準が分からない状態になって時間が相当経ちました。春夏秋冬、地域毎にあった目安や傾向がなくなり、生産者方々の苦労は計り知ることができません。
今年平成23年1月19日、新燃岳が噴火。風下にあたる宮崎を中心とした市町村は今でも甚大な被害を受けています。実は、宮崎において一昨年前から春早い時期に美味しい玉ねぎをモスバーガーで使いたいという思いで試験栽培を開始しています。まぎれもなく今回の噴火被害にあった地域です。今月の産地だよりは農業視点から自然災害を考える特別編として、少し落ち着きを取り戻してきた新燃岳周辺産地を訪問した様子を報告します。

大事な光が遮られる

宮崎空港から車で宮崎北部方面へ移動、モスのトマトを栽培している「JA尾鈴大玉トマト部会」の黒木清蔵さんの元を訪れました。この地域は昨年、牛の口蹄疫で甚大な被害を受けた場所でもあります。新燃岳からは相当離れた場所ですが、2月は毎日のようにハウスの上に積もった火山灰を払っていたそうです。ハウスの屋根面積は広大、かつ危険も伴うため動力噴霧器で吹き飛ばす方法。当初は取り除いてもすぐうっすら積もるといういたちごっこだったそうです。特にトマトは光を欲しがる作物ですが、ハウスの屋根に灰がうっすらかぶった状態でも3割位の光が遮られてしまうとのこと。また、この火山灰は取り払ってもビニールを曇らせてしまい元のような透明になることはないそうです。次回栽培開始の時にビニールを取り換える必要があり経費の増加が発生してしまいます。
このハウスのビニールに灰が積もります

このハウスのビニールに灰が積もります

ハウスの中のトマトは元気に育っています

ハウスの中のトマトは元気に育っています

部会長黒木さん

トマト部会長の黒木さん

雑草の色が違う

次に噴火被害が大きく報道された県南の都城市へ移動。都城に近づくにつれて畑の様子が何か違うことに気づきました。冬ですから畑もあまり作物は作っていません。しかし畑を区切るあぜ道が遠目に見て何かおかしい。雑草がみどり色はしていますが植物の緑ではありません。生気の無いみどり色に褐色と白を少し混ぜたような感じです。別の畑は一面真っ黄色。車を停めてみると牧草が枯れあがりそのまま放置されているものだと分かりました。

1月27日新燃岳爆発的噴火

新燃岳は宮崎と鹿児島の県境、霧島連山のほぼ中央に位置します。都城からは有名な霧島にちょうど隠れて見ることはできません。ですが、この日も時々噴煙が上がっていたので、その位置は分かりました。記録もされない程度のちょっとした爆発でしたが十分迫力はあります。大爆発した時の2,000mもの噴煙は想像がつきません。
この火山灰は晴れていると少しの風で舞い上がります。雨が降るとコンクリートのように硬くなり、除去するには普通の土の倍以上の力が必要となります。また水を通しにくいので表面を流れて低いところへどんどん流れて行ってしまうなど、取り扱いが非常に困難です。そのため、大爆発後は道路の火山灰と噴石除去のために全国から道路清掃車が集結し、遠くは千葉、静岡など様々なナンバープレートの清掃車が協力してくれたそうです。
道に積もっている降灰

道に積もっている降灰

火山灰の農作物への影響

火山灰の特性は火口からの距離や噴火した時の時期と風向きなどで種類が異なります。農業の視点から降灰の影響を調査すると、爆発初期の白い火山灰は酸性の程度も弱いのであまり心配はないということです。問題となるのは2月後半から降った黒っぽい火山灰の影響です。黒はイオウを含んでいる証拠。実際に現地で嗅いでみると、はっきりとした温泉臭が分かります。この影響が今後どう出てくるのか、農家さんが最も不安に感じていることです。
“黒い灰”の層

“黒い灰”の層

ホウレンソウが全滅

都城でも比較的火口から遠方にあるほうれんそうの畑を案内してもらいました。遠くからは「もうすぐ収穫?」と思うような繁茂に見えましたが、その畑の農家さんが重い口調で言いました。
「このホウレンソウ畑は噴火後の降灰で一回ダメになった状態だったのを葉面散布等で手をかけて何とか再生できたものです。周りの人たちが栽培を諦めかけていた時の再生だったので非常に注目されていました。ところが収獲間近の先週から、・・・良く見てください。縮れはほうれんそう特有のものではないです。見たことのない枯れや斑点もある。葉の周囲や内部に枯れがある。結局この畑は全部ダメです。出荷できません。」 この畑は約20a。他にも同じような畑がいくつもありました。
出荷できないほうれんそう畑

出荷できないほうれんそう畑

降灰により一度ダメになったほうれんそうの痕

降灰により一度ダメになったほうれんそうの痕

霧島とほうれんそう畑

霧島とほうれんそう畑

「寒さ」が原因か、「噴火」のせいか?

同じ地域の玉ねぎ畑を確認しました。病気に関しては一部発生していたものの軽微でした。問題はその生育状態です。草丈が30cmと低いが葉の枚数はこの時期の基準通りなので明らかに生育遅れです。3~4週間は遅れています。都城でも年末から非常に強い寒気に襲われ平年より3℃程低かったようです。「この生育遅れは寒さが原因なのか、噴火降灰のせいなのか?」さらに新燃岳に近い玉ねぎ畑まで行ってみて愕然としました。そこには12月に植えてからほとんど生長せずに心細く立っている玉ねぎの姿がありました。火口に近い分だけ灰の量も多く、黒い灰も層になっているのが分かりました。部分的にしか見ていませんが、「寒さ」と「降灰」両方の要因が生育を阻害しているものと思います。
霧島と玉ねぎ畑。調度霧島の裏側が新燃岳

霧島と玉ねぎ畑。調度霧島の裏側が新燃岳

本当はもっと繁茂しているはずの玉ねぎ苗

本当はもっと繁茂しているはずの玉ねぎ苗

玉ねぎ畑前の農道。大きな礫も降ってきたことが分かる

玉ねぎ畑前の農道。大きな礫も降ってきたことが分かる

玉ねぎ畑に積もった灰

玉ねぎ畑に積もった灰

去年栽培された新玉葱の写真、今年は?

去年栽培された新玉葱の写真、今年は?

希望と勇気、力を合わせましょう!

ここ数年、各地で起こっている様々な災害・被害映像を見るたびに、その大きさと現地の方々の悲痛な思いを感じる一方、自分が生きていることに、生かされていることに率直に感謝の気持ちを持ちます。同時に海外から見た目や報道であらためて気付かされることもあります。「暴動が殆ど起きない」「何か自分にできることはないかと積極的」「列を作って順番を待つ」など …自分ひとりのことよりも周囲、社会との調和を大切にする… 私たちが日頃意識しないでやっていること、“日本人特有の文化的資質”感じるとともに大きな誇りだと思います。
そんな誇り高きベースがある私たち。北海道から沖縄まで。希望をもちみんなで力を合わせてこれからもいろいろ降りかかってくるであろう難局を乗り越えていきましょう!

頑張ろう!みんな。頑張れ!わたし。頑張ろう!日本。頑張ろう!地球!!
Text by Tomio